職場での暴力・ハラスメント 5人に1人
2023.1.1
国際労働機関(ILO)は、2022年12月にロイドレジスター財団、ギャラップ社との共同報告書で、被雇用者の男女のうち約23%(約5人に1人)が、身体的、心理的、性的な暴力やハラスメントを職場で経験しているという調査結果を示しました。この調査は、2021年に121か国の地域の15歳以上の被雇用者約7万5千人を対象にインタビューを行ったもの。職場の暴力やハラスメントについて世界規模の調査が行われたのは初めてとのことです。
ILO駐日事務所が公開している英文記者発表の抄訳によると、心理的な暴力やハラスメントに合ったことがあるのは、被雇用者の男女17.9%。身体的な暴力やハラスメントに合ったことがあると回答したのは6.3%で、特に女性が多いことがわかったそうです。
職場における暴力やハラスメントは計測が困難で、被害を誰かに打ち明けるケースはわずか半数しかなく、多くの場合は複数の形態の暴力やハラスメントを受けてようやく話すようになることなどもわかりました。被害を話さない理由として最も多かったのは「時間の無駄だと思う」「評判が落ちるのが怖い」で、女性で(60.7%)は男性(50.1%)に比べて被害を話す傾向がみられたとのことです。
一方で、人々が自分の被害に遭った経験を話すのを妨げる要因としては、恥や罪悪感、制度に対する信頼の欠如、容認すべきでない(暴力やハラスメントなどの)行動が「普通」ととらえられていることなどが挙げられています。
種類を問わず暴力やハラスメントの影響を受ける可能性が最も高いグループは、若者、移民労働者、賃金労働者の男女だったそうです。性的な暴力やハラスメントについては、若い女性が被害に遭う数は若い男性の2倍に、移民女性は非移民女性の2倍近くに昇るそうです。また、被害者の5人に3人以上が、職場で暴力とハラスメントを複数回経験したと答え、その多くが過去5年以内に被害を受けていると回答したそうです。
ILO条約の2019年の「暴力及びハラスメント条約」(第190号)と勧告(第206号)は、ジェンダーに基づくものを含む、仕事の世界における暴力とハラスメントを防止、是正、排除するための国際労働基準で、国際法上初めて、暴力とハラスメントのない仕事の世界に対するすべての人々の権利を尊重、促進、実現することを批准国に求めています。
日本国内に目を向けると、2022年11月にパーソル総合研究所が国内における職場のハラスメントに関する調査結果を発表しています。
それによると、2021年の年間におけるハラスメントによる離職者の推計は約86.5万人。そのうち57.3万人が会社に被害を伝えることができずに離職し、会社からはハラスメントの発生件数として把握されていないとしています。さらに、全就業者の34.6%が職場で過去にハラスメントを受けた経験があり、被害の内容としては「自分の仕事について批判され、言葉で攻撃される」というのが65.1%でもっとも多いとことが分かりました。しかし、被害者自身の4分の1は特に何の対応もしておらず、周囲の目撃者についても4割が特に何もしないとのことです。
ハラスメントが発生しやすい組織の傾向としては、「会議で誰が提案者かによって通り方が異なる」「トラブルの原因よりもだれの責任かを優先する」などの属人思考の風土が強いことが挙げられており、相談しても無駄だと予期する「相談無力感」も高かったそうです。
こちらの調査は、主に日本人が受けているハラスメントに関するものですが、他にも、労働研修などの名目で、外国人労働者に対して暴力やハラスメント、賃金不払い、パスポートの取り上げといった人権を無視した行為が行われているということがメディアで指摘されることもあります。社会全体で、広範な意識改革が求められているのかもしれません。
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