共同センターロゴ小今月の話題(2016年7月)

企業年金の現状はどうなっているのか(年金問題を考えるその17)

2016.7.1

 企業年金は、私企業が勤労者の老後の生活をより豊かにするために公的年金に加えて選択的に設ける私的年金のことです。主に企業年金の計算は「退職給付会計」と呼ばれる会計ルールにのっとって計算されています。年金資産は、企業が社員のために積み立てたお金です。あくまで年金や退職金のためのお金=社員のお金なので、企業は手はつけられません。給料の後払いとしての性質もあるためです。したがって、企業のバランスシートからも除外されています。

 一方、年金債務は、将来の年金・退職金の支払いがどれくらいあるか、会計ルールにのっとって計算したものです。債務、と聞くと借金を思い浮かべますが、将来必ず支払わないといけないお金と考えれば借金も年金も同じような性質を持っています。年金資産と年金債務は、同じだけの金額であれば、少なくともその時点では問題が無い事は分かるでしょう。しかし、実際には多くの企業が年金資産の積立不足に陥っています。この積立不足の部分が退職給付引当金という名目で、企業のバランスシートに負債として計上されています(資産・債務とも毎年変動します)。

 積立不足の理由としては、運用の不振と予定利率の高さです。年金資産は株や債券などで運用されていますが、運用に失敗すると企業自身が損失の穴埋めをしなければなりません。損失を出した場合は勿論、予定利率に届かなかった場合も同じです。予定利率とは、これくらいの利率で運用できるだろうと想定&約束した利回りです。これが3%ならば、毎年3%で運用できなければ足りない分を穴埋めする必要があります。

 実際には国債利回りの低下や株価の低迷で、運用は上手くいっていません。ここで問題になるのが、年金資産の大きさです。歴史のある大きな企業では、年金資産が数百億円とか数千億円もある企業も珍しくありません。1000億円の運用資産で、1割の損を出せばマイナス100億円となります。これを企業が穴埋めしているのです。規模の大小だけではなく、企業収益に対する割合で考えれば、年間の利益が1000万円の企業に1000万円の損が発生すれば、実際にはこの穴埋めを何年かに分けて行いますが、その負担は企業収益を大きく圧迫します。

 それでは利回りを下げればいいのではないか、と思われるかも知れませんが、その様にはいかないようです。おおよそ企業年金の予定利率は3%程度が多く、このケースで、年金資産の6割を国債、4割を株などのリスク資産で運用すると仮定した場合、国債の利回りは1%程度ですから、リスク資産は6%の利回りで運用しなければ予定利率を達成できません。

 これは昨今の株式市場の状況を考えればかなりきびしい目標です(今年は年初から急激に上がりましたが、何十年も6%を続けるのは相当難しいそうです)。ではこれを現実的な2%とか1.5%に下げるとどうなるでしょう。この場合、将来約束した額の年金を払うには企業が毎年負担する費用(拠出金)を増やすか、あるいは年金を減らす、といった方法があります。どちらにせよ、現状とは違う事をやるわけですから、簡単には実行できません(特に年金の減額は滅多な事では出来ない)。

年金減額訴訟例

 2007年TBSで年金制度の変更により支給額が減額となり、訴訟され、和解金を上積みとして東京地裁で和解しています。

 2007年松下電器産業の退職者が自社年金の支給率を下げるのは不当と訴訟を起こしたが、減額が最高裁で認められています。

 NHKでも独自のNHK年金という企業年金を運営しているが、積み立ての欠損金が2008年度末で3300億円に膨らみ、受信料を年間100億円超投入して15年かけて穴埋めしていくとしています。また、現役職員に受給額の4割程度を401k(確定拠出年金:掛け金が確定し、給付額が運用の結果によって決定)に移行するなど対応をおこなっています。

 問題を覆い隠すために無理な高い利回りを追求しないといけないのが企業年金の現状だといえます。今の制度設計は人口増、経済成長を前提としている以上、無理が生じるのは当然といえば当然でしょう。

 年金で破綻はすでに企業だけの問題では無くなっている、というのが現実です。年金問題は過去も現在も未来にも、現在の年金保険制度は破たんしているも同然と指摘されて久しいのですが、時の政府は依然として年金問題は先送りにしています。問題の後回しは政治の責任を果たしているとは言えません。

(この項終わり)