共同センターロゴ小今月の話題(2010年10月)

雇用の二極化で「有期労働契約」をどうみなおす?

2010.10.2

 有期労働契約者の範囲、通常の労働者との処遇の均衡、契約の更新・雇止めなど、今後の「有期労働契約」のあり方に大きな影響を与える「報告書」原案が厚生労働省から発表されました。これからの有期労働契約に関する政策の方向性を示すのが目的です。

 「報告書」は、下記の項目を検討するとしています。

  1. 契約締結事由の規制
  2. 有期労働契約の締結の時点で利用可能な事由を限定することを検討する。

  3. 更新回数や利用可能期間に係るルール
  4. 一定年限等の「区切り」を超える場合の無期労働契約との公平、紛争防止、雇用の安定や職業能力形成の促進等の観点から、更新回数や利用可能期間の上限の設定を検討する。

  5. 雇止め法理(解雇権濫用法理の類推適用の法理)の明確化
  6. 定着した判例法理の法律によるルール化を検討する。

 上記の検討項目等について非正規雇用者の有期労働契約は、どうしたら労働力から労働者としての処遇へきちんと見直せるのでしょうか。

 08年末から派遣労働者の削減や臨時・季節工・パートタイム労働者の再契約停止・解雇を行う企業の割合が急激に増加しました。そして09年以降、非正規労働者の減少が明確になりました。そのかなりな割合が派遣労働者だったことは報道などで御存じのとおりです。08年までの雇用調整期でも非正規労働者は増加し続けていたことを考えると、大きな雇用形態の転換だったと言われています。 

 一方 、正規雇用の労働者は、解雇や希望退職者の募集を行った企業は多くなく、その割合も小さかったといいます。それは、何度か実施された「雇用調整助成金」の対象拡大と支給要件緩和が大きく影響しているといわれています。オイルショックや1990年代の金融危機後でさえ600億円前後の規模だったのが、09年度の助成支給額は6536億円と文字通り「けた外れ」の規模でした。この膨大な助成金のおかげで正規雇用は大幅な調整をせずにすんでいます。しかし、雇用調整助成金はあくまで緊急避難的措置なのはいうまでもありません。

 このような、たとえ助成金で首一つ繋がっているとはいえ正規雇用者の代わりに雇用調整の極端な「しわ寄せ」を受けた派遣など非正規雇用者と、正規雇用者とが二極化している現状をどうしたら埋めることができるでしょうか。

 それには、有期雇用の非正規労働者の比較的長期にわたる有期契約の解禁も一つの雇用形態の在り方でしょう。また、勤務地・職種限定型など多様な「准正社員」制度の創出や、有期雇用期間に応じた処遇は、企業の側からみた有期雇用活用のメリットです。それにコストが削減できて雇用調整の柔軟性確保にもつながります。しかしこれには問題があります。

 それは有期労働者に対しての努力や能力向上のインセンティブ「誘因」がほとんど与えられていないことです。その結果企業の生産性が低下すると有期雇用活用のメリットは小さくなります。実際、スペインの製造業で有期雇用の割合の高い企業ほど生産性が低いが、有期雇用から正社員への転換率が高い企業ほど生産性が高くなるという調査結果が出ています。

 そこで、正社員への転換の他に、有期雇用の納得感を高める方法として短いながらも期間に応じて年功的な賃金や退職金を用意することも必要です。費やした金額の問題ではなく、有期雇用であっても能力を向上させながら期間を重ねて働き、組織に貢献することに対して、企業が責任を持って評価することが重要ではないでしょうか。

 契約期間終了後の雇い止めには、一定の条件のもとで無期雇用と同様にみなす法的扱いをもとめるケースもありますが、雇い止めのトラブルは金銭で解決する新たな仕組みも考えてみるのはどうでしょうか。有期雇用の契約更新の判断をより柔軟にするという意味でも、労使双方にとって認識のギャップを埋める大きなメリットになると思います。

 今後、中長期的に労働力が減少していくと予測される中、有期契約労働者を公正に処遇し、労働者が仕事と家庭生活との調和を図りつつ、生きがい・働きがいのある充実した生活を送ることができるよう、法改正を含めた制度整備がなされることが望まれます。

(資料:日本経済新聞「経済教室」)

(この項終わり)